日本にいたときは、味噌汁と納豆を毎日食べていた。特に意識していたわけじゃない。ただ、それが当たり前の食卓だった。
ニュージーランドに来てから、味噌も納豆もほとんど食べなくなった。手に入らないわけじゃない。アジア食材店に行けばあるけれど、なんとなく日常からは離れてしまった。
最近、体がなんとなくダルい。エネルギーが低い感じがする。理由は正直わからない。睡眠かもしれないし、季節かもしれないし、ただの気のせいかもしれない。でも、ふと「味噌と納豆を食べなくなったことと関係があるのかもしれない」と思った瞬間があった。
証明できる話ではない。ただ、気になったので、発酵食品について調べてみることにした。調べていくうちに、同じ大豆からこんなに違う食品ができる仕組みが、思っていたより面白かった。
こんな人に読んでほしい:
- 味噌や納豆を日常的に食べていた人、食べなくなった人
- 発酵食品がなぜ体にいいと言われるのか、仕組みから知りたい人
- 同じ大豆から味噌と納豆ができる理由が気になる人
結論:同じ大豆でも、働く菌が違うと別の食品になる
味噌と納豆は、どちらも大豆から作られる発酵食品だ。でも、味も香りも食感もまったく違う。
その違いを生んでいるのは、発酵に使われている菌の種類だ。味噌は「麹菌(こうじきん)」というカビの仲間、納豆は「納豆菌」という細菌(バクテリア)。そもそも生物として種類が違う。同じ大豆を渡されても、まったく違う仕事をする菌だということが、調べてみてわかった一番面白い部分だった。
発酵とは何か|微生物が食べ物を分解する現象
発酵とは、微生物(カビ・細菌・酵母など)が、食べ物に含まれるデンプンやタンパク質を分解して、別の物質に変える現象のことだ。
分解されることで、もとの食材にはなかった旨味成分や香り、栄養素が生まれる。同時に、人の体が消化しやすい形に変わることも多い。「発酵食品が体にいい」と言われる理由の多くは、この「分解されている」という工程そのものにある。
ここからは、味噌を作る麹菌と、納豆を作る納豆菌、それぞれが大豆に対して何をしているのかを見ていく。
麹菌(こうじきん)|味噌・醤油・甘酒を作るカビ
味噌づくりに使われているのは、「アスペルギルス・オリゼー」という学名を持つ麹菌だ。日本醸造協会によって「国菌」に認定されているカビの一種で、清酒・味噌・醤油・甘酒・塩麹など、日本の発酵食品の多くを支えている。
麹菌は、大豆や米に繁殖する過程で、2種類の酵素を作り出す。
アミラーゼ(デンプン分解酵素)
デンプンを糖に分解する。米麹を使った甘酒の甘さは、米のデンプンが麹菌の力で糖に変わったもので、砂糖を加えていなくても甘くなる仕組みだ。
プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)
大豆や米のタンパク質を分解し、アミノ酸を作り出す。このアミノ酸が、味噌の旨味の正体だ。大豆そのものを食べても感じられない深い旨味は、麹菌が時間をかけてタンパク質を分解した結果、生まれている。
つまり麹菌は、大豆や米を「甘く」「旨味のある」状態に変えていくカビだということになる。
納豆菌|味噌とはまったく違う仕事をする菌
納豆を作る納豆菌は、麹菌とは生物としてのカテゴリーがそもそも違う。麹菌はカビ(真菌)だが、納豆菌は「枯草菌(こそうきん)」という細菌(バクテリア)の一種だ。
稲わらや枯れ草に多く生息している菌で、蒸した大豆に加えて発酵させると、納豆ができる。納豆菌も麹菌と同じようにタンパク質を分解してアミノ酸(旨味)を作るが、それ以外にも麹菌にはない働きをする。
ネバネバの正体
納豆特有の粘りは、納豆菌が発酵の過程で作り出す物質によるものだ。大豆そのものにはまったくない食感が、菌の働きだけで生まれている。
ナットウキナーゼ
納豆菌が作り出すタンパク質分解酵素の一種で、納豆を語るときによく登場する成分だ。
ビタミンK2
納豆菌が発酵の過程で多く生み出す栄養素で、もとの大豆にはほとんど含まれていない。
納豆菌は「芽胞(がほう)」という殻を作る性質があり、熱や乾燥、酸性の環境にも強いと言われている。胃酸に負けずに腸まで届きやすいと言われているのも、この強さが関係しているようだ。
麹菌と納豆菌は相性が悪い|醸造の現場での意外な話
調べていて一番驚いたのがこの話だ。
味噌・醤油・酒の蔵元では、製造期間中に職人が納豆を食べることを避けるという文化があるらしい。理由は、納豆菌が非常に強い菌だからだ。麹菌よりも増殖力が強く、もし蔵の中に納豆菌が入り込んでしまうと、麹菌の働きを妨げてしまう可能性があるという。
同じ大豆を発酵させる菌なのに、現場では「共存できない」扱いをされている。これは知らなかった。同じ食材から生まれる発酵食品でも、舞台裏ではまったく別の生き物として扱われているのだと知って、見方が少し変わった。
発酵によって「消化しやすくなる」とはどういうことか
麹菌も納豆菌も、タンパク質をアミノ酸に分解する力を持っている。これは、体にとって都合のいい変化でもある。
タンパク質は、体内で一度アミノ酸まで分解されないと吸収されない。発酵の過程でこの分解がすでに進んでいるということは、消化器官の負担を発酵食品が先に一部引き受けてくれているとも言える。
大豆をそのまま茹でて食べるのと、味噌や納豆として食べるのとでは、体への負担の感じ方が違うかもしれない、と言われることがあるのもこのためだ。ただし、これは消化の負担を「軽くする」可能性がある、という話であり、すべての人に同じように当てはまるとは言えない。
自分の体験|気づいたところまでの正直な話
日本での食生活を振り返ると、味噌汁と納豆は本当に「毎日」だった。特別なものだと思っていなかった。あって当たり前の存在だった。
NZに来てからは、自炊の中心が変わった。卵・パン・サラダ・スープが多くなり、味噌と納豆を食べる頻度は大きく減った。手に入らないわけではないけれど、習慣として自然に離れていった、という感覚に近い。
最近、なんとなく体がダルい。やる気が出にくい、エネルギーが低い感じがする日が続いている。正直、これが何の影響なのかはわからない。睡眠の質かもしれないし、季節の変化かもしれない。ただの思い込みである可能性も十分にある。
ただ、調べ始めたきっかけは「もしかして味噌と納豆を食べなくなったことと関係があるのかもしれない」と感じた瞬間だった。証明できることではないし、今回はその仕組みを調べて終わる記事にしようと思っている。何かを変えようとか、実験を始めようという話ではなく、まずは「気づいた」というところまでを正直に書いておきたかった。
発酵食品と腸内環境のつながりについては、こちらの記事でも詳しく書いている。
→ 関連記事:はじめての腸活|一人暮らしで続けられる3つの習慣と発酵食品の選び方 - 豊のたね
腸と気分のつながりについては、こちらも参考にしてほしい。
→ 関連記事:食事とメンタルの関係|気分が落ち込む日に見直したい3つのこと - 豊のたね
まとめ
- 味噌は麹菌(カビの一種)、納豆は納豆菌(細菌の一種)という、まったく違う生物の働きで作られている
- 麹菌はデンプンを糖に、タンパク質をアミノ酸に分解し、味噌の甘みと旨味を生み出す
- 納豆菌はタンパク質をアミノ酸に分解しながら、ネバネバ・ナットウキナーゼ・ビタミンK2という納豆特有の成分を作り出す
- 麹菌と納豆菌は相性が悪く、醸造の現場では納豆を避ける文化があるほど
- 発酵によってタンパク質がすでに分解されていることが、消化のしやすさにつながっている可能性がある
日本にいたときの自分にとって、味噌と納豆は「ただの習慣」だった。仕組みを知ってから、当たり前に食べていたものの裏側に、こんなに違う菌の働きがあったことに気づいた。
体のダルさとの関係はまだわからない。でも、知ってよかったと思っている。
※この記事は個人の体験と調査に基づくものです。医療・栄養のアドバイスではありません。気になる方は専門家にご相談ください。